インプラント 料金活用術と生活の知恵
医者にだけは黙って身をまかせるのは、もちろんその知的・科学的権威のせいにはちがいないでしょうが、同時に医者が少なくとも床屋さん程度には倫理的であることを信じているか、信じようと努めているからでしょう。
人間は誰しも苦しんでいる人を見れば助けたいと思い、悲しんでいる人を見れば慰めようとします。
まして医者あるいは医療者は病気を治し、患者を救うことを自分の使命と考えてその職業を選び、長い間そのための教育・訓練を受けた人たちですから、悪意をもって患者に接するなどということは大変に考えにくいことです。
もちろん、自分自身や家族の生活を支えるためには報酬をあてにしないわけではありませんが、金儲けが目的であると公言するような医者は、あまり世の中にはいないだろうと思われます。
神奈川県の相模原に開業して地域の人から大変慕われた元軍医の豪傑医者、庵政三さんという方は戦後、その地域に国民健康保険の制度ができた時「何よりもありがたいことは患者さんから直接お金を受け取らなくてもすむようになったことだ」といっていたという話ですうのは、ちょっとサマにならない光景にちがいありません。
私の父は田舎医者でしたが、盆・暮れ二回の治療代は、他の商売の場合のように戸別訪問をして集めるわけにはいかないので、請求書を用意して向こうから支払いに来るのをじっと待っていました。
ときには芋や大根を受け取っていることもありました。
本当は喉から手が出るほどお金がほしくとも、医者の体面上、痩せ我慢をしていたにちがいありません。
今ではこんな見栄はりの医者は少なくなったと思われますが、道徳権威的な雰囲気なりポーズなりが全く消え去ってはいないし、また消え去るわけもないでしょう。
このような聖人畷をしているものですから、ひとたび医者の不正があばかれると、偽善者ないし裏切り者に対する憎しみの感情が爆発するわけで、世間からの一層はげしい非難を覚悟しなくてはならないのかも知れません。
聖人君子でなげれば医者になれないというのでは困りますが、ひとの苦しみに共感しやすく、ひとの悩みを見逃がしにくい、比較的やさしい気持の持主が医者になりたがるのだろうと想像しても、あまり間違っていないように思われます。
自分の身内が悲惨な病気に苦しんでいるのを子供の時に見て医者になる決心をした、という人は少なくありません。
幼い女の子がよく、大きくなったら看護婦になりたいといいます。
つまり、人間のもっている本来の心のやさしさが医療の仕事を選ばせると考えても、大体において間違っていないでしょう。
したがって、少なくとも平均的な倫理感覚をもった人たちが医療者になることを期待していいのではないでしょうか。
そのうえ医療者となって、病める者、死にゆく人の傍に立ちつづけることによって倫理感覚がますます鋭敏に研ぎすまされることを期待することも、許されていいことのように思われます。
ところが近ごろのマスメディアは、医者というのはちょっと目を離すと水増し請求や脱税をするし、健康な子宮をあっさり取ってしまう一世にも兇悪で破廉恥な人種であるかのように扱っています。
こういう事件が新聞やテレビで報道されますと、世間は「氷山の一角」だといいますし、医者の仲間たちは「例外」だと言い訳します。
一体どちらが本当なのでしょう。
真理は、その真ん中あたりにあるのでしょうか。
すでに明治の末年、「大学生のうち風紀類廃の最もはなはだしいのは医学生である」(長尾藻城のほかには何らの趣味も何らの知識をも有せざる底の没分漢なり」(近藤燕處『仰臥三年』)と書かれているのです。
医者は一般に金の儲かる、あるいは儲ケアすい商売である、とどうやら考えられていたようですから、昔から特別に心やさしい人たちではなく、逆に人間を人間と思わない、特別に金儲けの好きな、腹黒い人が医者の中には多かったのでしょうか。
そして近ごろの医者は、何らかの理由でその特性をいっそう強めたということでしょうか。
医科大学に入るために億に近い金が動いているという話などを聞くと、もはや道徳的権威とは無縁な職業に堕してしまったと考えるべきかも知れません。
今日、赤ひげを求めるのは時代遅れであるということでしょうか。
どうやら人間というのは、どういうこと善にも悪にも慣れることができるという、逞しい、あるいは便利な、あるいは因果な性質をもっていることを認めないわけにはいかないようです。
一般の人たちの場合は、人間が死んでいく場に居合わす機会は一生の間に数回を危険な商売出ないでしょう。
ところが医療者にとっては、人生における最も厳粛な出来事であるはずの死すら日常茶飯事となりえます。
そのため、いわば不感症に陥り、死にゆく患者も保険の点数に見えるようになるかも知れません。
その上そのような事態に立ち至ると、昔ながらの道徳的権威が不道徳のカモフーラジュとして積極的に利用される恐れもなくはないでしょう。
なにしろ医療者が相手にする患者やその家族たちは、全くといっていいほど医学の専門知識をもっていない上、ワラにでもすがりつきたいせっはつまった気持に陥っていますから、その弱みにつけこもうと思えば、専門家にとってはそれこそ赤ん坊の手をひねるよりもたやすいことなのです。
したがって医療者は、意識的にしろ、無意識的にしろ、相手の弱みにつけこもうとする誘惑にかかりやすいのは、むしろ当然かも知れません。
すでに三〇〇年前、モリエルは「人間の弱点につけこんで甘い汁を吸おうとしているのは、何もわれわれだけではない。
人間の弱点は命に対する執着だ。われわれ医者は、もったいぶったたわごとでそれを利用するのだ。という医者仲間のひそひそ話を書いています。
どうやら医者というのは、もともとひとの弱みにつけこもうとする誘惑に陥りやすい因果な商売、特別に倫理的に危険な商売であると考えてもよさそうです。
そのことを自覚した上で強い警戒心をいだいていて初めて、医者の道徳的権威が額面通り承認されるということなのでしょう。
カリスマ的権威今日に生きる「威厳」キリストが病人や障害者を治したという話は、いくつも伝えられています。
仏教シャマンというのは、超自然的な能力をそなえた存在と考えられていました。
フランス王の手に触れてもらうために数干の巡礼が集まったといいますし、十六世紀末、アンリ四世がはリに入ったとき最初に行なったことは、六〇もちろん一般の医者は神仏でもないし、王様の一族というわけでもありませんが、努めて「権威ある如く」振る舞ったもののようです。
ウィリアム王、メアリ女王、アン女王の侍医をつとめた名医ラドクリフは診察料を決めないでいたといいますが、彼の用いた黄金の柄の杖は次とロンドンの名医たちに受けつがれたといいます。
今日では黄金の柄の杖を見せびらかしている医者などはもちろんいませんが、医者や看護婦が白衣を着ているのは、単に衛生的な見地からというだけではなく。
の意味合いがないとはいえません。
実際、小児科などでは子供を恐れさせないため、白衣を着ない傾向が近ごろ出てきたようです。
Y・Tさん「病気にかからないかぎり自分の動物としての存在を忘れている手紙の中で「子供だましのようにて恐縮なれど、総じて医者はさようにするものにこれあり、病者は子供になっていただかねば治らぬものにこれあり、なにとぞその道理をお含み願い上げています。」と言っています。
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